「9.11」でなぜアメリカが狙われたの?
アメリカ同時多発テロ「9.11」から、今年20年を迎えます。
www.bbc.com
想像ができない規模の事件ね…
2001年9月11日、テロ組織アルカイダが、アメリカで4機の飛行機を一度にハイジャックし、2機はニューヨークのワールドトレードセンター、1機は首都ワシントンDCの近くにあるアメリカ国防省に突入しました。残る1機は、乗客がテロ行為に気づき反撃を行ったため、ワシントンDCからおよそ100キロ北西に離れたペンシルベニア州シャンクスヴィルに墜落しました。同機の目標はホワイトハウスだったとされています。一連の事件に巻き込まれて亡くなった人の数は3,000以上*1といわれています。
でも、なんでアメリカが狙われたんだろう?
今回は、「9.11」でアメリカがなぜ標的となったのか、その原因について探っていきます。- アルカイダってどんな組織?
- 冷戦とイスラム世界にはどんな関係があるの?
- アメリカとソ連は、どのように中東の国に接近したの?
- 冷戦が終わったあとどうなったの?
- 「9.11」のあとどうなったの?
- 参考文献など*3
アルカイダってどんな組織?
まずは、テロを実行したアルカイダについて調べていきましょう。
アルカイダは、「カリフ国家」を復活させることを目的とし、その目的を達成するための手段として「グローバルジハード」を主張する組織です。
カリフ国家???グローバルジハード???
最初に「カリフ国家」について説明しましょう。「カリフ国家」のカリフとは、イスラム教における上位の人の地位を指します。イスラム教は、神(世界に一つだけの絶対的な存在)とその声を聞くことができるムハンマドという人物が中心になって作られている教えです。ムハンマドが伝えた神のお告げがイスラム教の聖典「コーラン」です。
カリフは、この神のお告げを聞くことができるムハンマドが亡くなった後、ムハンマドに代わって、イスラム教徒の人々を導く最高の地位に立つ人を指します。
イスラム教の教えに基づく国家を作りたかったのね
次にグローバルジハードについて説明します。まず、ジハードとは、「神のために自己を犠牲にして戦うこと」を指します。
さらにジハードは「拡大ジハード」と「防衛ジハード」の二つに分けられます。
「拡大ジハード」は、非イスラム教との世界と戦うことを言います。これにはカリフの宣言が必要です。
「防衛ジハード」は、イスラム教を信仰する人々の世界(イスラム世界)に対し危害を加えてくる人から守るために戦うことをいいます。これにはカリフの宣言は必要ありません。
カリフが言うまではほかの宗教の人を攻撃しちゃいけませんよってことよね?
じゃあ、イスラム教の国ではないアメリカはなぜ攻撃されたの?
アルカイダは、アメリカが、イスラム世界を直接・間接的に攻撃しているという認識を持っています。
また、アメリカの同盟国は世界中にあります。アメリカの企業などの様々な権益が世界中に拡散しており、それらの脅威からイスラム世界を守るために攻撃を行うとしています。
©2021 DEFENSE PRIORITIES. All Rights Reserved.
Burden shifting to fix outdated alliances — Defense Prioritiesより引用
アメリカの同盟国は世界中にあるのね
イスラム世界を守るために、世界中でジハードを行う、これがグローバルジハードという言葉です。でも、なんでアメリカがイスラム世界を攻撃したことになったんだろう?
アメリカが、イスラム世界の争いに突入していったきっかけは、「冷戦構造」です。冷戦とイスラム世界にはどんな関係があるの?
冷戦構造は、世界の国々がアメリカが率いる自由主義陣営とソ連が率いる共産主義陣営に二分され、互いにけん制し合う構造です。
イスラム世界の中心となるのは、聖地メッカがある中東の地域です。
出典:Google Map
さらにこの地域には、ヨーロッパとアジアをつなぐスエズ運河という大事な交通路が整備されています。
赤線がスエズ運河を通るルートです。ここが通れないと、船でアジアへ向かうには、黄色いルートのはるか南のアフリカの南端まで迂回しないといけなくなります。
通れないととても不便ね
また、中東は現代の生活に欠かせないエネルギー資源である石油を生産する、油田を沢山抱える重要な地域でもあります。Copyright Agency for Natural Resources and Energy All rights reserved.
「令和元年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2020)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2020pdf/whitepaper2020pdf_2_2.pdfより引用
石油の約半分が、中東地域に埋まっているとされています。
そのため、冷戦の前から重要な地域でした。冷戦が起きる前にもイギリスとフランスの勢力圏争いがありました。
イスラム世界の中でも、中心となる中東が勢力争いの舞台になったのね
その中東に多く居住するのはアラビア語を話すアラブ人でした。そのアラブ人が勢力争いの巻き添えになるのです。緑色が中東のアラブ諸国*2です。
アラブ人の住む地域は細切れに分割され、各々の土地の王族が統治する状態になっていたのです。
国境線がきれいに直線だったりするのが、勢力圏争いと関係があるのかな?
冷戦時代になるとアメリカとソ連の争いに引き継がれます。どちらも、中東の国を自分たちの味方に引き入れて、スエズ運河の通行や石油を提供する相手を自分たちの手で操れるようにしたかったのです。アメリカとソ連は、どのように中東の国に接近したの?
まずソ連が先に動きます。ソ連は、「汎アラブ主義」の勢力に接近しました。
汎アラブ主義?
アラブ人が団結できる国を作ってイスラエルに対抗しようとする考えが「汎アラブ主義」です。1948年に中東のパレスチナという地域にユダヤ人の国家「イスラエル」が建国されました。
もともとは、アラブ人が住む細切れにされた土地の一部でした。そのためアラブ人は怒って、イスラエル建国と同時にアラブ人の国々が戦いを挑みましたが、負けてしまいました。その反省から生まれた考え方です。
汎アラブ主義の人たちは、アラブ地域の王族を打倒し、一つの大きなアラブ人の国になりたい。と考えました。
これをソ連が「民族主義」による革命ととらえ応援したのです。1950年から60年にかけてエジプト、イラク、シリアといった国が革命に成功し、革命家たちが治める民族主義国家になりました。
水色がイスラエル、濃い緑色が民族主義国家(西からエジプト・シリア・イラク)です。
アメリカは、ソ連に対抗してアラブと敵対するイスラエルに近づきます。
また、イスラエルと対立しているはずのアラブの王族にも接近しました。ソ連が支援する「民族主義による革命」によって打倒される対象となった彼らは、米国にとって仲間にしたい相手だったのです。
ソ連を抑えられれば、もともとの仲の良し悪しは気にしないのね…
この無節操な戦略が、中東における反米感情の原因となります。冷戦が終わったあとどうなったの?
1991年12月にソ連が崩壊し、アメリカは冷戦で勝利を収めることができました。
一方で、中東にはイスラエルとアラブ諸国の対立と、王族が統治する細切れの国々、そして王族に批判的な民族主義国家が残ったままとなりました。
さらに、冷戦を生き残ったアラブの王族や革命家たちは、自らの権力維持を重要視します。そのため、批判を認めない強権的な国が中東に残ります。
アラブ人はアメリカにいいように利用されてしまったのね
この状況に不満を持つ人たちは、アラブ人のもう一つの心のよりどころ、イスラムの教えを中心にまとまろうと考えます。これが「イスラム主義」組織の形成につながっていきます。中東の王族や革命家たちは、このようなまとまりを、国への批判につながるとして弾圧していきました。
弾圧をすれば、弾圧をされただけ不満がたまり武力で訴えようとする人たちが出てきます。やがて、テロを行う過激組織に変化していきました。
中東で起きるテロは、中東の国々が強権的な体制であることの裏返しでもあるのです。
イスラム主義組織は、中東の王族や革命家たちに対して怒っているんでしょ?アメリカが攻撃される理由はまだわからないんだけど
アメリカに対する感情が悪化する大きな出来事として、ソ連崩壊と同時期に起きた湾岸戦争があります。1991年1月に勃発した湾岸戦争は、イラクがクウェートに侵攻したことを契機に、アメリカを中心とした多国籍軍がクウェートを解放するために戦った戦争です。
その戦争のときに、アメリカは友好国であるアラブの王族が治める国、サウジアラビアに拠点を設けます。
サウジアラビアの王族であるサウド家は、「メッカとメディナというイスラム教の二大聖地を守る守護者である」というイスラム教上の権威を理由にして、国を治めていました。
守護者なのに他人に守ってもらっていいの?
アメリカは非イスラム世界の国です。それをイスラムの守護者であるサウジアラビアが引き入れる。ただ引き入れるだけでなく、同じイスラム世界のイラクを攻撃させている。この事実が、中東、そしてイスラム世界に大波紋を巻き起こします。イラクは上で述べたように民族主義国家でした。そのため、王政のサウジアラビアを「汎アラブ主義」の邪魔をする存在として非難していました。サウジアラビアの王族には、イラクがいつ攻撃してくるかわからないという恐怖があったといわれています。
湾岸戦争が終わった後も、アラブの王族と民族主義国家の対立などが残っているため、アメリカはサウジアラビアに軍を駐留させ、中東の問題に直接関わることにしたのです。
テロリストたちは、自分たちを弾圧するアラブ人国家が、異教徒であるアメリカ人の言いなりになっていると考えました。そのためアメリカも含めてやっつけなければ、中東の問題は解決しない。と考えるようになったのです。
これが、上で述べた「グローバルジハード」へつながっていきます。
「9.11」のあとどうなったの?
話を2001年に戻しましょう。この同時多発テロ事件は、アメリカに住む人々に大変な衝撃をもたらしました。
中東の問題は、遠く離れた地域の出来事だと思っていたからです。ところが、現実には中東の問題解決を訴えるテロリストたちが、アメリカに直接乗り込んで攻撃をしたのです。
アメリカはテロの恐怖に震え上がりました。そこで、犯人をかくまっているアフガニスタンのタリバン政権への攻撃など「テロ」との戦いを始めることになります。
なお、アフガニスタン攻撃とその顛末は、先日のブログに書いています。
hime-note.hatenablog.jp
アメリカは自分の国をテロから守るためには、力づくで何とかしなければと考えたのね
さて、中東問題のために活動するテロリストは、前述のように、その地域の支配者から弾圧をされています。一方で、支配者同士の関係に目を向けると、王族と民族主義の指導者で敵対をしていますし、イスラエルとの対立も終わっていません。
そのためテロリストはその地域では弾圧される一方、敵対しているほかの地域からこっそり応援されるようになっています。
自分のところは追い出そうとしてるのに、ほかの地域では応援するってなんかめちゃくちゃね…
テロリストを攻撃しているアメリカは、この支離滅裂な戦いに自分たちの身を落とし込んでしまったのです。参考文献など*3
- 戦火の欧州・中東関係史 東洋経済新報社 2018年
- <中東>の考え方 講談社 2010年
- イスラーム法からみるパレスチナ問題 (イスラム世界 93号) 日本イスラム協会 2020年6月 P27-60
- アルカイダ | 国際テロリズム要覧2021 | 公安調査庁
- 白地図ぬりぬり-地図グラフの制作ツール (地図作成に利用)